デルタフォースのSIG MCX: LVAW

LVAW(Low Visibility Assault Weapon: 低視認性突撃銃)は、米国のSOCOMとJSOCが近年調達した、小型の消音小銃。消音器を標準装備して、.300 Blackout弾を使用する。

LVAWの実例として、2013年5月に発表されたSIG MCXと、2011年10月に発表されたAAC Honey Badgerが挙げられる。(ちなみに、SOFIC 2013で初公開された当時、MCXは「HALO」という名称で呼ばれていた。MCXについては、日大危機管理サバゲーサークル様がとても詳細な資料(PDF)を作成してくださったので、そちらを参照されたい。)

上の写真は、2015年9月、米クアンティコ海兵隊基地で開催された装備展示会・MDM 2015のMARSOCブースに展示された、2013年型SIG MCXと、M4A1 SOPMOD Block IIと、KAC M110K1。なお、海兵隊とLVAWの関係性は不明。

概要

  • 米陸軍デルタフォースは、SIG MCXをLVAW(HK MP5SDの後継)として採用した。
  • 米海軍DEVGRUは、AAC Honey BadgerをLVAW(HK MP7の後継)として試験運用した可能性がある。
  • SOCOMの評価試験において、MCXはHoney Badgerに勝利した。
  • SOCOMは今後、MCXアッパーと.300 Blackout弾の配備を進めると見られる。

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2016年8月に公開された、シリア・マンビジに展開する米軍部隊の写真(出典不明)。前列右端の隊員がガイズリー416を持っていることから、デルタだと考えられている。中列の隊員がSIG MCXを持っている。「デルタによるMCXの使用例」とされる唯一の写真である。

.300 BLK

.300 Blackoutは、レミントン社とその傘下であるAAC社が開発し、2011年1月にSAAMIの承認を受けた、比較的新しい小銃弾である。この弾薬には次のような特徴がある。

  1. ロシアの7.62x39mm弾と同様の着弾効果が得られる。(優れた制圧性)
  2. 消音器との相性が優れている。(優れた静音性)
  3. 短銃身との相性が優れている。(優れた携帯性)
  4. 銃身を交換するだけで5.56mm仕様から移行できる。(優れた互換性)

2000年以降の米国では、5.56mm NATO弾の弱点を補うために、様々な小銃弾が開発されてきた。例えば、6.5mm Grendel弾、6.8mm SPC弾、.458 SOCOM弾、.50 Beowulf弾などが挙げられる。これらの弾薬と比較すると、.300 Blackout弾は、軍・民の両市場で大きく成功した弾薬だと言える。(余談だが、古英語叙事詩『ベオウルフ』には、グレンデルという名前の怪物が登場する。)

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Instagram(リンク切れ)

米軍特殊部隊における最初期の.300 Blackout弾の使用例。2010年頃、AAC MPWを試験運用する米陸軍3rd SFGのJohnny “Primo” Primiano氏。彼はSOCOM用サイレンサーの選定委員を務め、その後SilencerCo社に就職した。コメントで.300 BLK弾を「最高」と評している。

開発

なぜ、デルタはSIG MCXをLVAWとして採用したのか? その経緯は、HK416がデルタの新小銃として構想された頃まで遡る。HK416の起源について、リー・ネヴィル氏の『Guns of the Special Forces 2001-2015』には、次のような記述がある。

Leigh Neville (2015) “Guns of the Special Forces 2001-2015” Pen & Sword Books, p.125

HK416は、SOCOMのConfined Spaces Carbine(閉所戦闘用小銃)計画から誕生した。この計画は、超小型で折曲銃床をもつJSOC用小銃を追求するもので、2001年以前から存在していた。

デルタは416の開発にあたって折曲銃床を要求していたが、何らかの理由で断念し、MCXの採用によってこれを実現させた」という事情が伺える。ネヴィル氏の別の本から、もう一つ引いてみよう。

Leigh Neville (2016) “Modern Snipers” Osprey Publishing, p.259

HK416は、HK社とデルタフォースが共同開発したものである。デルタは当時のM4A1よりも信頼性の高い5.56mm小銃を求めていた。(そして当初は折曲銃床も要求していたが、途中で断念し、数年後にLVAW計画の一部として復活することになる。)

MCXはデルタの要求に応じて開発された小銃である。デルタは、銃床の折り曲げができて「低視認性」になる小銃を求めていたようだ。消音器を標準装備して、.300 Blackout弾を使用することで、MP5SDを代替する目的もあったと考えられる。(なお、『Guns of the Special Forces 2001-2015』p.143によると、デルタは5.56mm仕様と.300 BLK仕様の両方を採用したようだ。)

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『月刊アームズマガジン』2016年9月号 特別付録、ホビージャパン、p.49

選定

2015年4月、SIG MCXがLVAWとしてSOCOMに採用されたことをSoldier Systemsが報じた。LVAWの選定にはAAC Honey Badgerも参加していたことが分かっている。AAC社と繋がりのあるJasonM氏は、2014年10月に次のような書き込みを残している。

ハニーバジャーは現在行われているLVAW選定に参加しています。数か月前に絞り込みがあって、二つの最終候補が残りました。ハニーバジャーは最終候補の一つですが、それが勝つ見込みはあまりないと思います。

2014年の中頃にLVAWの候補が2種類に絞られて、MCXとハニバが残ったことを示している。『Guns of the Special Forces 2001-2015』p.141によると、「MCXの発砲音はハニーバジャーよりも10デシベル静かであるらしい」とある。また、同頁はMCXの調達についても言及している。少し長くなるが、一段落まるごと引いてみる。

「ブラックマンバ」の異名をとるMCXは、競合相手であるハニーバジャーを開発した元AAC社員による設計を継承している。SIG社のコメントによると、MCXは陸軍の特殊任務部隊(デルタだと考えられる)の要求に応じて開発された。これを書いている時点で、SOCOMは不特定多数のMCXを調達しているが、噂によると、試験のためにフォート・ブラッグへ送られているそうだ。SOCOM向けMCXは、5.56mmアッパーと.300 BLKアッパーの両方を搭載していると見られる。

「ハニーバジャーを開発した元AAC社員」とは、ケヴィン・ブリティンガム氏のことである。ブリティンガム氏が親会社によって解雇され、ハニーバジャーの開発計画が凍結されていた間に、SIG社が完成させたのがMCXである。ブリティンガム氏は初めてMCXを手にした際、MCXがハニーバジャーよりも優れていることを確信し、それを「ブラックマンバ」(ハニーバジャーすなわちミツアナグマを殺しうる蛇)と名付けた、という逸話がある。

DEVGRUのHoney Badger

2017年2月、DEVTSIXのNSWDGスレに、「DEVGRUがHK MP7をハニーバジャーに更新し、HK417もWilson Combat社の.308口径小銃に更新されている」という噂が書き込まれた。この噂の前半部分について検証してみよう。ネヴィル氏の本から2箇所引いてみる。

Leigh Neville (2015) “Guns of the Special Forces 2001-2015” Pen & Sword Books, pp.103-104

.300 Blackoutは、JSOC部隊の要望を受けて2000年代後半に開発された弾薬であるが、正式に初公開されたのは2010年だった。噂によるとDEVGRUは、より良いCQB弾薬と、消音器を着脱できて200メートル以遠でも有効なCQB小銃を求めていた。DEVGRUは、消音MP7の射程と威力に不満を抱き、代替装備を模索していたのである。その答えは.300 BlackoutとAAC Honey Badgerだった。

(中略)

ハニーバジャーは、DEVGRU隊員によってアフガニスタンの実戦で試験運用され、好評価を受けたと言われている。.300 BLK弾は英軍特殊部隊も試験運用しているらしいが、その結果は不明である。

Ibid., p.78

MP7A1はDEVGRUで使われなくなる可能性がある。と言うのも、DEVGRUの代表者が.300 Blackout弾を使用する新型軽量小銃のアイデアを、消音器メーカーのAAC社に持ち込んだらしい。(中略).300 Blackoutの亜音速弾は、9x19mmや4.6x30mmよりも弾道学的に優れている。超音速弾は、AK-47に使われるロシアの7.62x39mm弾と同様の着弾効果が得られるそうだ。これら全て、9インチ銃身をもってMP5SD3と同サイズの消音小銃から撃ち出せるのである。AAC社はハニーバジャーと呼ばれる試作品を開発したが、これは海軍の隊員らに大ウケしたと噂されている。一方でSIG社も同様の小銃を開発しているが、それはデルタ向けのMCX(.300 BLKと5.56mm)である。

結局、噂の域を出ないようだ。デルタのMCXと違って用例写真もない。しかし、MP7の射程不足については、元DEVGRUのマーク・オーウェン氏が次のように証言している通りである。

MP7は近距離では強力です。100メートルを超えると……弾道がボロクソです。MP7の使い道はありますけどね。私がMP7を使うときは、大抵、火力を補うためにM79グレネードランチャー(通称パイレーツガン)も一緒に持っていました。

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Instagram

ケヴィン・ブリティンガム氏が紹介しているハニーバジャーの最初期のプロトタイプ。「サイレンサーとPDWストックを標準装備した.300 BLK口径の超小型小銃」というコンセプトは最初から変わっていないようだ。

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Instagram

これもハニーバジャーのプロトタイプなのかもしれない。

概念

2012年5月、AAC社のロバート・シルバース氏がNDIAフォーラムで講演を行い、.300 Blackout弾を使用するLow Visibility Carbine(LVC)について提唱した。このLVCという概念がSOCOMとJSOCの目に留まり、後のLVAW計画になる。講演のパワポ資料はPDFで閲覧できる。資料のp.2によると、LVCは次のように定義されている。

LVCは、MP5SDと同じくらい静音かつ3倍の射程をもつ.30口径小銃である。更に、MP7よりも優れた貫通力と着弾効果をもっている。CQBに効果的でありながら、100メートル以遠の敵を攻撃・排除する能力を有する。

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Robert Silvers (2012) “300 AAC Blackout Low Visibility Carbine” Advanced Armament Corp., p.9

MP5SDと同じくらい静かで、MP7よりも射程が長く強力で、MP5/MP7と同じくらいコンパクトな小銃」は、いかにもTier 1特殊部隊のニーズを満たすものである。MP7の弱点を克服した次世代のMP5SDが登場したと言える。デルタやDEVGRUが食いつくのも当然である。

シルバース氏は、MITを卒業後、2008~2013年までAAC社の研究開発部長を務めた。AACのサイレンサーや.300 Blackout弾の開発において必要不可欠だった存在である。(ちなみに彼は、多数の写真からモザイク写真を生成するアルゴリズムを開発し、「Photomosaic」の商標と特許を取得した人物でもある。)

LVCについては、我が国の防衛技術協会も認知しているようだ。防衛技術協会が2014年に発表した調査報告書(PDF)の中でLVCが紹介されている。この評価によると、日本の小火器技術は、米国には劣るが諸外国よりも優れているらしい。

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一般財団法人 防衛技術協会(2014)『調査報告書: 防衛生産・技術基盤の現状及び将来技術並びに、防衛装備品等の技術に関する国際比較調査』p.7(強調は引用者による、h/t @Military_Hobbys

将来

SOCOMは現在、既存のM4A1を改良する3つの計画を進めている。SOFIC 2018で発表された資料(PDF)を見てみよう。

  • SURG Development → 5.56mm弾を使用する消音アッパーの開発。
  • Upper Receiver Group Enhancements → Block 3アッパー(URG-I)の開発。
  • PDW Development → .300 BLK弾を使用するPDWアッパーの開発。
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Mark Owens (2018) “Ammo & Weapons” Program Executive Office for SOF Warrior, p.12

2018年7月、MCXをベースにSIG社が新規開発した特殊なアッパーが、SURGとして採用された。耐熱カバーがついた消音器、M-LOKを採用したハンドガード、デルタが要望していたような折曲銃床が特徴的。CQBR(近接戦用アッパー)とSPR(精密射撃用アッパー)に次ぐ、3番目の実用改修アッパーとなることが期待される。

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Soldier Systems

その一方でSOCOMは、2017年3月から、M4A1を.300 BLK口径のPDWに変換するコンバージョンキットを要望している。それに対して、翌年の2018年2月、SIG MCXのPDW版であるMCX Rattlerのアッパーを、SOCOMが10セット発注したことが報じられた。NSWC Craneにて評価試験が行われていると考えられている。

ちなみに、SURGとPDWアッパーの配備先について、Soldier Systemsは興味深いコメントを残している。

SURGとPDWはどちらも、主にNSWとMARSOCの要求です。USASOCはそのどちらにも関わっていません。そのかわりUSASOCは、M4A1アッパーを改良するために独自路線を歩んでいます。したがって、このSURGがSOCOM全体の新型アッパーになるとは思えません。

JSOCのLVAWとしてSIG MCXが採用された。SOCOMのSURGはMCXアッパーになった。SOCOMのPDWもMCX Rattlerになるかもしれない。いずれにせよ、MCXと.300 BLK弾が今後の米軍特殊部隊において大きな地位を占める可能性は高いだろう。

年表

  • 1997年 – ケヴィン・ブリティンガム氏が趣味としてAAC社を設立。
  • 2009年10月 – フリーダム・グループ社(レミントン社)がAAC社を買収。
  • 2011年01月 – AAC社とレミントン社の.300 BLK弾がSAAMIの承認を受ける。
  • 2011年10月 – AAC社がAUSA 2011でハニーバジャーを発表。
  • 2011年12月 – ブリティンガム氏がフリーダム・グループ社に解雇される。
  • 2012年05月 – AAC社がNDIAフォーラムでLVCについて提言。
  • 2013年05月 – SIG社がSOFIC 2013でMCXを発表。
  • 2013年06月 – ブリティンガム氏がフリーダム・グループ社を提訴。
  • 2013年12月 – ブリティンガム氏がフリーダム・グループ社に勝訴。
  • 2014年02月 – SIG社がブリティンガム氏を雇用。
  • 2014年中頃 – SOCOMのLVAW選定でMCXとハニーバジャーが決勝に進出。
  • 2014年12月 – ハニーバジャーの民間向け販売が発表される。
  • 2015年01月 – レミントン社がSHOT 2015でハニーバジャーを発表。
  • 2015年04月 – SIG MCXがSOCOMのLVAW選定で勝利。
  • 2015~16年 – ブリティンガム氏がSIG社に解雇される。
  • 2016年03月 – ブリティンガム氏が独立してQ社を設立。
  • 2016年08月 – シリアに展開した米軍部隊によるMCXの使用が確認される。
  • 2016年11月 – Q社が新型ハニーバジャーを開発したと発表される。
  • 2017年01月 – Q社がSHOT 2017で新型ハニーバジャーを発表。
  • 2017年03月 – SOCOMが.300 BLK弾を使用するPDWについて公告。
  • 2018年02月 – SOCOMがMCX RattlerのPDWアッパーを少数調達。
  • 2018年07月 – SOCOMがMCXアッパーをSURGとして採用。

今後少しずつ追記していきます。